その坂を越えたらー前編ー

「亀の甲より年の功」とは言うけれど、人生のベテランさんの言葉は実に説得力がある。中でも99歳まで生きた瀬戸内寂聴さんの言葉は力強い。



51歳で得度して僧侶となった寂聴さんの人生は、波瀾万丈だったけれど、なんだかとっても人間くさいと思う。実際に天台寺で青空法話を拝聴したことがあるけれど、どんな話も自分の実体験に基づいているから説得力があった。よく通った、高い声。それはまだはっきりとわたしの耳に残っている。


あのね。人を好きになるのは止められないの。雷に当たるようなもので、もうそれはどうしようもないの。



父親である作家の井上光晴さんと恋仲だった瀬戸内寂聴さんの関係をモデルにして、実の娘さんが書いた小説を読んだ。あくまでも「小説」だというけれど…。出逢いはめぐり逢わせだと言うのなら、どうしようも無かったということなのかな。



『あちらにいる鬼』




・・・




人生は本当に山あり、谷あり。坂もいっぱいありますが、その中にマサカという坂があります。
私たちはある日突然に、そのマサカに行き当たる。
「まさか!」ということがおきるんです。
瀬戸内寂聴




マサカという坂だなんて上手すぎる。でも寂聴さんの言う通りかも。私もある日突然にマサカに行き当たったもの。そのマサカという坂は、小さな坂もあれば、大きな坂もあった。すぐに終わる坂もあったし、いつ終わるのかわからない坂もあった。マサカという坂は、越えたと思ったらまた現れるの。ひとつ越えたら、またひとつって感じに。



わたしはいったい、あとどれくらいのマサカを越えなければならないのだろう…。なんてことをぼーっと考えていて、はっと気が付いたのだ。




いちばん大きなマサカは、人生の最後の最期に残っていることを。たぶん、こう思うのではないかな。





あれ?わたし、もしかしたら死んじゃった?









マ、マサカ!!!