自分の頭の上の蝿を追えない人に他人のことをとやかく言うことはできないのさ
子どもをひとり育てただけで、それは物凄い財産なのさ
常に相手の身に置き換えて考えるのさ
手のない人だっているんだから、手が折れたぐらいどうってことないのさ
私って本当にツイてるひとなのさ
いつもツイてるツイてると言ってると、本当にツイてることが続くのさ
起きてしまったことはもう仕方ないのさ
とにかく前向きに生きるしかないのさ
これらの名言は著名人のモノではない。SNOOPYでもスナフキンでも、フィッツジェラルドの名言でもない。わたしがこの二週間一緒に過ごしている夫の母、義母の名言だ。北海道弁だらけの義母の名言。
結婚当初は、あまりにもグイグイな義母に戸惑ったり緊張もしたけれど、付き合いが30年ともなると本当の親子とまではいかないにしても、理解が深まってることを実感する。同居の経験も無く、長期間一緒に過ごすこともなかったお陰で、所謂嫁姑問題とは無縁だったしね。それにしても、女が古いと書いて姑と読ませるのはちょっと悲しいな。
この度、私用も含め色々と用事があり義母の家に長期滞在してるのだけど、こんなにも長くお世話になるのは初めてのこと。しかも嫁のわたしひとりで。今までもまるで娘みたいに可愛がってはもらってきたけれど所詮は赤の他人。
時々寂しいことはあっても、好きなように気ままな独居生活を送っていた義母のところに、わたしがやってきて義母が疲れないわけがない。わたしはわたしで、義母の負担にならないように気遣いしながら、さり気無く家事炊事をこなすという日々を続けてきてわかったのは・・・
思いの外、楽しい。
それはひとえに、義母が偉大だから。この一言に尽きる。自分で看取ることができた満足感からか、二年前に夫を亡くしてからもまだ一度も泣いてないという義母。わたしたちに迷惑をかけまい、心配をかけまいとの一心で、自分を奮い立たせ前向きに生きるグレート・マザーなのだ。
そんな姿を見てると、俄然元気が出てくるよ。歳をとると、若かった頃と今の自分を比べては、こんなんじゃ無かったのにと文句を言う人ばかりなのに、義母は違う。
なんもさ。歳なんだから、これくらい当たり前さ。
できなくなった自分を責めるではなく、当たり前のことと受け入れる。だって、なってしまったことは仕方ない。歳を取ってしまったのだから、できなくなるのは仕方がないことだ。
グレートと言えばギャッツビーだよね
わたしが夫と結婚して良かったことの一つは、こんな偉大なる義母と出会えたことだ。弱音も吐かず、弱気になることもない義母だけど、今回何度か病院受診に付き添ったときはとても嬉しそうだった。わたしが同伴だったから医師の態度が違ったとか、普段聞けないことを聞いてもらえたとか。一人で不安なこと、きっと色々あるはずだ。
・・・
月子ちゃん、偉いね。ほんとよく頑張ったね。
マサカの坂が現れて数年経った頃、ひょんな流れで一連の出来事をわたしは義母に話してしまった。
大層驚きながらも、わたしの話を最後まで聞き終えた義母はそう言った。それは、わたしが子どもの頃から最も欲していた言葉だった。わたしはただただ必死だっただけ。自分のことを偉いと思ったことなんて無い。でも、義母にそう言われて、何だか全身の力が抜けた気がした。そして、未だ夫にも内緒にしているあの秘密を、義母に打ち明けていた。
へそくりの100万円を探偵に使ったことを。
・・・
わたしのグレート・マザーは、パンパンに浮腫んだ脚をさすりながら、心配するわたしに向かって、歳なんだからこんなもんさ、と呟いている。
どうかまだまだ元気でいてほしい。
どうかまだまだ人生を楽しんでほしい。
グレート・マザー。
貴女はわたしの目標です。
いつかわたしも
あなたみたいな義母になれるでしょうか