もうひとりのお母さん

体調不良により病院受診をした息子は、「最低でも二週間の休養を要する」と医師に診断された。そうなってしまった原因とか、そこに至った経緯などはまた別の機会に話すとして…。




とにかく今は何も考えずに休みなさい。まずはゆっくりと眠りなさい。そして、休みができたらやりたいと思っていたことをやったらいいとわたしが言うと、息子は自分が休みの日に何をしていたのか全然思い出せないと言う。
 



最近やってたのは、カフェで仕事の準備してたとか、美容室に行ってとか、、、。オレ、何やってたんだ?




友だちにも会ってないし、あんなにやってたゲームもやってないわ。そう言えば漫画も読んでない。そういやYouTubeも観てないわ。マジでオレ何やってたんだっけ?



・・・



その日息子は、ぼろぼろになってしまった身体のメンテナンスのひとつとして歯科に出かけていった。ストレスによる食いしばりが酷いため、仕事中に歯が欠けたのだという。そう言えば、大学受験前にもストレスで顎関節症になったことがあった。



私は、夜間の食いしばり対策にマウスピースを作成してもらうように息子に言った。歯科終了後、買い物中の私と合流した息子は、久しぶりに行きつけのセレクトショップを覗きたいと言う。



あぁ、あのお店ね。私と息子がリリーさんと呼んでいる店員がいるお店だ。なぜリリーさんかと言うと、声や雰囲気がリリー・フランキーに似てるから。リリー・フランキーからエロ部分だけをスパッと削除したような紳士だ。笑



息子が好きな某有名ブランドと数十年以上の付き合いがあり、同じ百貨店の中の直営店にも置いていないレアモノをたくさん買い付けてくる素敵なショップだ。今まで息子が購入してきたダウンもパンツもトレーナーも何もかも、誰とも一度もかぶったことがないと言うから驚きだ。その日もリリーさんの姿があった。



久しぶりの買い物だと言う息子は、いっぱい試着をして、いっぱい悩んで、いっぱい洋服を買った。Tシャツ一枚が数万円もするけど、上着なんて何かの間違いではと思うような値段だけど、私は止めることはしなかった。自分で働いて得たお金で、過労死寸前になるまで働いて得たお金で、自分の好きなモノを買うことに何の問題があるというのだ。



寧ろ煽ったね。リリーさんよりも勧めたよね。だってとってもお似合いなんだもの。手足が長くてお腹はぺったんこなのに適度にマッチョ。リリーさんも言うように、今の若い子は自分たち世代とはからだのつくりが全く違う。何を着せても見栄えがする。何を着ても腹回りがだらしなくなってしまう夫とは全然違うから、試着を見てても楽しかった。洋服を爆買いした後、駐車場へと向かいながら息子が呟いた。




何かこういうことしてたな、オレ。この景色懐かしいわ。ちょっと思い出してきた。なんか嬉しいな。そうだ、これから高校に行ってこようかな。からだ動かしたいから部活覗いてみっかな。



あのひと、あんま電話に出ないんだけどねと言いながら、息子は三年の時の担任中森先生(仮名)に電話を入れている。すぐに繋がったようだ。息子は会社を休むことになった理由を手短に説明し、じゃあ後で〜と笑って電話を切った。




今日は部活はオフだってさ。でも、会社休んでる理由言った途端、先生に言われたわ。






あんた、今すぐ来なさいよ!












中森先生、もうひとりのお母さんみたいだからな。笑