モンスターハンターと、超えてはいけないラインとー中編ー


   


以下は、息子の近くで息子の様子を見てきた私が、私なりの解釈をして、息子の気持ちを想像して書いた物語です。先日、息子の車に乗っていたとき、対向車線に唯ならぬオーラを放つライダー を目撃しました。ナレーションはその彼の声で「俺の家の話」一人語り風ナレーションでお読みください。
脚本は月子。登場人物、設定などは変えてありますが、内容はあくまでもノンフィクションです。



・・・



今日はオレの話をする。オレの仕事の話だ。オレは昨年四月に社会人になった。入社後半年にわたる研修が終わり、オレが配属されたのは、新人がいきなり配属されるにはキツい、少し特殊な仕事をする部署だった。なぜその部署にオレが配属されたのかはわからない。聞いたところによると、オレを自分の部署に欲しいと、ある上司の希望があったとのことだ。本当なのか?



それが本当ならオレは少しは期待されたのだろうか。だとしたら光栄だ。まだ何にも出来ないオレだけど、きっと厳しい世界だと思うけど、どんなことも頑張りたい。だって、勉強嫌いのこのオレが、念願の業界に就職できたんだよ。こんな嬉しいことはないじゃないか。頑張るしかないって話だ。



そんなわけで、オレはその少しばかり特殊な部署に配属された。期待半分、不安半分って感じかな。仕事内容は複雑でキツそうだ。だけど、やり甲斐もありそうだし、実はオレがいちばんやってみたかった仕事なんだ。だからオレは単純に嬉しかった。これは本当だよ。



実はオレには「この業界を変える」と言う、どでかい夢がある。ちょっと恥ずいから大きな声では言えないけどね。



ところが、だ。その部署が特殊なのは業務だけではなかったんだ。その部署には怪物と呼ばれて恐れられている上司がいた。何を隠そう、オレを欲しがった上司がその怪物だったってわけだ。噂では、その怪物の下に配属された人は、数ヶ月と持たないと聞く。以下、ここではその上司をモンスターと呼ばせてもらうことにする。



モンスターからは、今までも何人もの人が逃げ出している。病んでしまったり、退職に追い込まれた人もいる。入社当初からオレを可愛がってくれているK先輩も数ヶ月しか持たなかったらしい。最強メンタルと言われるあの大学の○○部卒の人でさえ退職したという。いやいや、オレ、大丈夫なのか…。ま、やるしかないけどな。オレの強靭なメンタルでやってやろうじゃないの。



それでもモンスターの下には優しいS先輩がいてくれた。右も左もわからないオレに、唯一仕事を教えてくれたS先輩。オレの兄貴と同い年で、本当に兄ちゃんみたいなんだ。だけど、S先輩はオレが配属されて間もなく、それまで受け続けていたモンスターの攻撃でダウンしてしまったんだ。



オレは、S先輩が崩れ落ちていく様をそばでずっと見ていたよ。睡眠障害で眠りにつくのが朝方のため、朝起きられないS先輩を毎日起こしたよ。朝迎えに行って、帰りはS先輩を家まで送り届けてから帰宅した。



会社の前で足が震えて膝から崩れ落ちたS先輩。オレはS先輩がノックアウトされた瞬間まで目撃してしまったよ。これは正直キツかった。S先輩は、お前はオレみたいになるなよと言い残して部署を去っていった。



・・・



優しいS先輩が去った部署に、程なくしてモンスターの犬がやってきた。モンスターの忠犬だ。過去にモンスターが嫌で、一度は自分から逃げ出した人だ。それが突然と作戦変更をしたらしい。モンスターのお気に入りになれば生き残ることができると考えたんだろうと、皆が言っていた。何とその忠犬先輩は、異常なまでにモンスターを崇拝していたんだ。



長らく会社を経営し、いくつもの試練を乗り越えてきたオレの叔父に言わせると、職場ではこのモンスターと忠犬の組み合わせが最悪だという。それぞれの持つ力が結託して悪のパワーが強大になるそうだ。大丈夫なのか、オレ。



だけど、モンスターは自分が異常だとは思っていない。モンスターにとってはそれが当たり前だから。所詮はモンスターと普通の人間とは相容れない生き物なのだ。だからなのか。オレと忠犬先輩は、いくら会話をしても話が全然と言っていいほど噛み合わないんだ。この前なんて同じ話を五回もしたのに全く話が通じなくて焦ったよ。もしかしたら、オレの頭がおかしくなったのか…。



その後、モンスターと忠犬先輩のターゲットがS先輩からオレへと変わっていった。オレは二人から凄まじい攻撃を受けることとなった。今までここを逃げ出した人たちは、モンスター一人の攻撃だったけど、オレは何とモンスターと犬と言う前代未聞のダブル攻撃だ。オレはまだここではまっさらな未熟者だ。武器もない。丸腰だ。いったいどう闘えばいいんだ。



だけど、オレはモンスターも忠犬先輩も持っていない武器をひとつだけ持っていた。入社前に取得した武器だ。これを持っていれば何かと役に立つと考えて、バイトで貯めた大金を使ったよ。



新人のオレが入社時にその武器を持っていることを知った社員たちは大層驚いた。その上、オレはその武器をなかなか上手に扱うことができると、いろんな人に褒められた。まぁお世辞もあるだろうな。でも、もっと上手くなって、もっと役に立ちたいって思ったよ。



忠犬先輩は自分がその武器を持たない理由を、オレにこう説明した。「小間使いにされるのが嫌なんだよ。」忠犬先輩は時間などお構いなしにオレを小間使いした。オレの仕事の進行具合などお構いなしだ。仕事だから仕方ないし、スキルは磨かれる。オレは自分に良い方に解釈して自分の仕事に集中した。



オレが入社早々にその武器を使っていることを知った母さんは、「えー、大丈夫なの?危なくないの?」と、うるさかったな。っと、何もわからないくせに勝手なこと言うなよな。仕事なんだから仕方ないんだよ。




ある日、忠犬先輩はオレにこう囁いた。 
「お前もこの仕事をしろ。これをやったらモンスターが喜ぶからな。」
なんと、忠犬先輩はモンスターを喜ばせるために働いていたのだ。





オレは、どうしたらいいんだ?

オレって、もしかして・・・。















リアルにモンスターハンターなのか?