コロナ禍の反動だろうか。私は、今年に入ってからLIVEに舞台にと、せっせと足を運んでる。松任谷由実デビュー50周年LIVEから始まり、お久しブリリアントの及川光博ワンマンショー。一度は観てみたい!と切に願っていた井上芳雄主演ミュージカル「ムーランルージュ」。今月は市村正親主演ミュージカル「生きる」。11月はユーミン再び。一年の締め括りは永ちゃん。そうそう、大好きなプロ野球の球場観戦も再開した。勿論、話題のエスコンにも行った。
コロナ感染拡大中は、もう生LIVEに行くことは無いなと思った。だから今、こんな日常が戻ったことは本当に喜ばしい。
ところで、数年ぶりに訪れた武道館でしみじみ感じたのは、来場者の年齢の高さだ。周りを見回すと、私たち夫婦みたいな熟年ばかりじゃないか。そりゃそうだよ。だって、演者が熟年なんだもの。私たちだけじゃなく、ステージ側の人たちも同じく年齢を重ねてる。時間は何人にも平等に流れてるってこと。
先月58歳になったばかりの吉川晃司。ピンク色のスーツでステージを走り回って歌う姿を初めて生で観たのは、私も吉川晃司も20代だった35年前のこと。来年はデビュー40周年。サポートメンバーもそれぞれ年齢を重ね、今や50代60代だ。後藤次利氏は何と71歳とな。
そして、私がその日最も楽しみにしていたのが、コーラスの大黒摩季さん。摩季ネェが来るってことは、あの曲を生で聴けるってことだから。
HEART∞BREAKER
ー作詞 大黒摩季・作曲 吉川晃司ー
吉川が歌う
君は幸せか?
夢はもう見つけられたか?
そこに愛はあるか?
摩季ネェが歌う
“いつか”も“奇跡”も
待っていられないなら 今を
変えるしかないサ
最高に盛り上がったのは言うまでもなく。今年54歳になる摩季ネェと58歳になった吉川晃司。何てパワフルでエネルギッシュな50代なんだ。寧ろ、若い頃よりもパワーが増しているように思う。
若い人たちには、その存在だけでパワーがある。そんな若者から元気が貰えるのは当たり前のこと。だけど、酸いも甘いも噛み分けた人生のベテランたちには、若者にはない力がある。豊かな人生経験によって培った力。そう、生きる力が。生きてきた年数分の。
ステージ真横のサイドバック席からはアーティストの細かい動きまでがよく見える。華奢だった身体は、胸板が厚く逞しくなり、真っ黒だった髪は、そのほとんどが銀色となった。35年前、ピンク色のスーツを着て、軽やかに踊り、歌っていた青年は今、ステージ上の椅子にどっしりと腰をおろし、余裕の微笑みを見せている。
人生折り返しなんて言いますが、折り返しは無いですから。前に向かって行くしかないですから。
ー吉川晃司ー
そう言い切ったあと、あの懐かしい曲を静かに歌い始めた。当初、この曲は演らない予定だったのを、「私の青春の曲だから!」と、摩季ネェに熱望され歌うことを決めたそうだ。
曲の途中、私は目を閉じてみた。あぁ…この伸びのある艶やかな声。あの頃と全然変わってない。あの日、LIVEで聴いた声だ。でも、35年前のLIVEで私の隣にいた友だちは、もうこの世には…いない。
そう考えたら、私が今日、ここにいることだって奇跡みたいなものだ。明日のことなんてわからない。吉川が言うように、前に向かってすすむしかない。人生を薔薇色にするために。
ゆっくり目を開けると、そこにはあの肩幅の広い青年がいた。
LA VIE EN ROSE