村上RADIOとノボルちゃんのおばさん


最近、RADIOをよく聴いています。便利な世の中になりましたね。そう、radikoでRADIOを聴いています。


今回の『村上RADIO』のテーマは、「猫山さんセレクト・猫づくしの音楽」。幼い頃から、うちにはいつも猫がいたという愛猫家の村上春樹さんが、『村上RADIO』にしばしば登場する猫のキャラクター「猫山さん」と一緒に、「猫の音楽特集」をお送りします。アル・スチュアートが1976年に出したヒット・ソング「イヤー・オブ・ザ・キャット(猫の年)」や、ザ・ローリング・ストーンズの「ストレイキャット・ブルーズ」など、猫という言葉がついたタイトルの曲を集め、歌詞の翻訳は、村上春樹さんが担当しご紹介。

 

7月31日に放送された「村上RADIO」お聴きになりましたか?私はリアルタイムに聴くことが出来ず、radikoで聴きました。久しぶりに聴く村上さんの声は、なんだか妙に心地よくて気分が上がりました。猫山さんセレクトの猫に関する曲も、どれもこれもオシャレでした。随分とたくさんあるもんなんですね、猫が出てくる曲が。



歌詞の翻訳は勿論村上さん。そして、語り口調がなんというか、イイ感じでした。何も知らない人がRADIOを聴いたら、まさか村上春樹だとは気がつかないかも。だって、ちっとも年齢を感じさせない声なんですもの。(村上さん、ごめんなさい笑)



猫好きの村上さんには猫に関するエピソードがわんさかあるから話題は尽きません。中でも、昔飼っていたある猫が、村上さんの膝の上でしかお産をしないという話には驚きました。まるで助産師さんみたいに猫のお産を介助した話を淡々と話す村上さん。さすがは愛猫家です。



村上さんは英語の発音がとても美しいですよね。私は、番組の冒頭で村上さんが「村上RADIO」と言ったのを聴いたとき、中学時代の英語の授業を思い出しました。先生に続いてみんなでRADIOと発音するときの、なんとも言えない小っ恥ずかしい気持ちを思い出したのです。





それと、私。良い発音のRADIOって聴くと、ある人を思い出します。それは、私の幼馴染ノボルちゃん(仮名)のお母さんです。



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父親同士が同じ会社の同僚だった私とノボルちゃんは、同じ社宅に住んでいました。私とノボルちゃんは同じ年です。家族ぐるみで仲良くしていました。偶然にも、私の妹とノボルちゃんの弟も同じ年齢です。



幼稚園入園を前にしてノボルちゃんが引越すまで、毎日の様にノボルちゃんと一緒に遊んでいました。私はノボルちゃんのお母さんのことを「ノボルちゃんのおばさん」と呼んでいました。ノボルちゃんのお母さんであって、おばさんじゃないのにね。



ノボルちゃんのおばさんは、私の母より少し年上でした。とは言っても、まだ20代。若いお母さんです。ノボルちゃんのおばさんは、色白でぽっちゃりとしていました。そして、品がある女性でした。笑うときは、手を口のところに持っていってホホホ…って笑います。ギャハハとか、ガハハではありません。ノボルちゃんが悪戯をして、ノボルちゃんのおばさんが怒っても全然怖くありませんでした。私の母の方が100倍は怖かったです。



ノボルちゃんが引越してからも、時々家族でノボルちゃんの家に遊びに行きました。いつ伺っても家の中は整理整頓されていて、ピカピカです。お菓子や飲み物を出すノボルちゃんのおばさんの所作を今でも覚えていますが、それはとても美しいものでした。ノボルちゃんのおばさんはお嬢様なんだよと、母から聞きました。結婚前はデパートの受付嬢だったそうです。なるほど納得です。立ち振舞いに育ちの良さが滲み出ていたのですね。


  
私がノボルちゃんのおばさんと最期に会った場所は病院でした。闘病中のおばさんを母と二人で見舞ったときです。私は、ノボルちゃんのおばさんへのお見舞いのひとつに、可愛いぬいぐるみを選びました。私はその頃、長男を妊娠中で少し目立ち始めたお腹を抱えてノボルちゃんのおばさんに会いに行きました。
  


久しぶりに会うノボルちゃんのおばさん。少し痩せていたけれど、やっぱり色白で可愛らしいのは変わっていませんでした。ふんわりした優しい声で私に話しかけてくれました。



あら…、つきちゃん、ありがとうね。
まぁ、可愛いくまちゃん。嬉しいわ。



そして、ノボルちゃんのおばさんは私のお腹を見て言いました。



ねぇ、つきちゃん。元気な赤ちゃんを産んでね。
それとね、子ども産んだあとは、お母さんに甘えなきゃダメだよ。いっぱい甘えなさいね。



なんだかわからないけど、私は泣きそうになりました。ノボルちゃんのおばさんは、私が甘え下手であることを知っていたのでしょうか…。



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そんな素敵なノボルちゃんのおばさんですが、結婚後は専業主婦でした。二人の息子の参観日には必ず学校へと出かけます。ノボルちゃんが中1のときの参観日のことです。その日は英語の授業参観でした。



ノボルちゃんは思春期に突入し、日に日に無愛想になっています。参観日に親が来ることすら恥ずかしい年齢です。その日、参観に来ていたお母さんたちはごくわずか。生徒たちはいつもとは違い緊張した様子です。ノボルちゃんのおばさんは、目立つことのないよう教室の後ろで静かに授業を参観していました。


 


英語教師がいくつかの単語を発音します。生徒たちは先生の後に続きます。




先生 RADIO


生徒 「RADIO」


先生 RADIO


生徒 「RADIO」


 

生徒達と、ノボルちゃんと一緒に真剣に英語の授業を聞いていたノボルちゃんのおばさん。気がついたらノボルちゃんのおばさんは、大きな声を出していました。驚いたのは生徒だけではありません。自分の出した声に、ノボルちゃんのおばさんがいちばん驚いていました。その声は、教室に響き渡りました。














レディオ!!!







村上さんのRADIOの発音で、私の遠い記憶が一気に甦ったというお話でした。もしかすると…ノボルちゃんのおばさんの命日だったのかもしれません。



最後までお読みいただき、




 






Thank you very much!