ー前略 失礼いたしますー



びっくりした?45年ぶりの手紙だもんね。互いの近況どころか、今では連絡先すら知らないのに、どうして手紙なんか書いたのかって?



それはね…



私ね、隔月で実家に帰ってるの。もう誰も住んでいない家に。そう、あの家に。その実家滞在中に少しずつモノを処分しているの。で、今回の帰省中にね、手紙の束を見つけたの。



私って、転校生だったでしょ。だから、前の学校の友だちからの手紙とか、年賀状をたくさん貰ってて、それを大事に取っていたのね。他には転校していった友だちからの手紙とか、雑誌の文通相手募集コーナーで知り合った子達からの手紙も残ってた。



その中にね、たった一通なんだけど、貴女からの手紙があったの。でもね…私は貴女からの手紙を読んだ記憶がないの。返事を書いた記憶も。とっても不思議なんだけど、全然覚えてないの。貴女以外の友だちからの手紙は、当時の情景までもハッキリと思い出せるのに。



なぜか貴女からの手紙だけ、何も思い出すことができないの。その手紙は、一度読んだら絶対に忘れることはできないはずなのに。当時の貴女は、私よりもずっと大人だったみたい。



なぜなら、もうすぐ中2になる13歳の貴女からの手紙には、「人生とは。生きるとは。」と言う、貴女なりの人生哲学がびっちりと書かれていたのだから。その頃の私はまだ幼くて、貴女からの手紙にどう返事を書いたら良いのかわからなかったんだと思う。



あれから45年。もうじき58歳になる私は、貴女からの手紙を何度も何度も読み返してるの。貴女は、いつも何かに苛立っていて、ちょっとやんちゃで、そして大人びていたよね。怒るときは顔を真っ赤にしていたね。いつもいつも、ひとり何かを深く考えてた。きっと誰よりも「生きる」ことについて、真剣に考えていたんだね。



手紙の中の、とりわけ大きな文字で書かれた貴女の言葉、なんだかやけに刺さったよ。長い年月を経て、私の前に現れた貴女からの手紙。それはたぶん、遠いどこかにいる貴女からの私へのメッセージ。




だから「今」を精一杯頑張ろう!




返事、遅くなってごめんね。
手紙、ありがとう。   草々              







貴女が元気でいますように。