『ドライブ・マイ・カー』ー女のいない男たちーわたしが映画を観る理由


WOWOW契約をして30年以上経つけれど、一年で最も喜び噛み締めるのはアカデミー賞授賞式が生中継される日です。今年は日本映画として史上初の作品賞、脚色賞はじめ、四部門でノミネートされた作品が話題となりました。そして見事受賞しました。



第94回アカデミー賞国際長編映画賞受賞
『ドライブ・マイ・カー』
 


原作は村上春樹氏の短編小説。短編集「女のいない男たち」に収められている「ドライブ・マイ・カー」のほか、「シェエラザード」「木野」のエピソードをいくつか組み合わせて仕上げられた、三時間を超える長編作品です。

バラク・オバマ元大統領が「2019年のお気に入りの本」に挙げたことも話題になりましたね。映画はR12指定ですが、そもそも村上作品は概ねR・・・。



こちらは随分前に読了した気でいましたが、細部はあまり覚えていないのです。と言うか、読むにつれどうにも気分が鬱いでしまい、一冊全てを読むに至らず放置していたのでした。映画を観るにあたり再び読み返そうかとも思いましたが、とりあえず読まずに映画を観ることにしました。



注意)以下、若干のネタバレあり




家福(かふく)は西島秀俊さん。家福の妻、音(おと)は霧島れいかさん(とても美しい。アラフィフとは思えません。)おそらくは音と関係を持っていた若い高槻には岡田将生さん。家福の専属ドライバーとなった渡利みさきは、今大注目の三浦透子さん。予想通りでした。映画を観たあと本を読んだなら、この四人が映像となり、台詞はそれぞれの音(声)で甦りました。



この部分は原作と違うのね…。えー、「シェエラザード」の強烈過ぎるエピソードをあそこで…。「木野」は・・・そうきましたか…。濱口監督って本当に凄い監督だと改めて思いました。



そんなわけで、私の場合は映画を観たおかげで原作を読むことができました。映画を観なければ、読み返すことは無かったかも。そして、映画では村上作品の主人公の多くが抱えているあのテーマが視えました。

 


ー喪失感ー



誰もが、人生のどこかで感じるー喪失感ー。大切なモノやひとを失ったとき。想像だにしていない出来事が起こったとき。ー孤独のどん底で自分とどう向き合い、喪失感をどう乗り越えていくのかー。そんなことが描かれてるのかなと思いました。残された人間は、どうしたって生きていかなければならないのですから。



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と同時に。私が終始感じていたのは何処かすっきりとしないもやもやした感情。妻の不貞に気付いていながらも平静を装い、知らないふりをし続けていた家福に対して。申し分の無い夫がいながらも何人もの男性と関係を持っていた音に対して。村上作品の主人公に共通して感じる、あのもやもやした感情です。



なんだ、結局自分のことしか考えてないじゃないか。けれども、その腹立たしさにも似た感情は、もしかしたら自分自身に向けた感情かもしれません。私が知っている自分勝手な人間、いつだって自分のことばかり考えている人間は、他でもない私自身だからです。



映画でも原作でも、私に一番突き刺さったのは高槻のセリフ。そうだよね。どんなに時間をかけたところで、どれだけ深く考えたところで、自分以外のひとの心を理解することなんてできないものね。映画の完成版を観て、「これでやっと俳優と名乗れる」と思ったという岡田将生さん。私の中にも強く濃く深く残りました。



・・・



俳優であり映画評論家、映画監督としても活躍する斎藤工さんはアカデミー授賞式の会場のことをこのように表現されました。



ー人生が変わる場所ー



とは言え、ハリウッドに行くことなどできません。だから私は映画を観るのです。映画館こそ人生が変わる場所だと思うから。たった一本の映画に生きる勇気をもらったり、たった一言のセリフに小さな希望を見出せたり、疲れた身体が元気になったり、心の傷が癒されることもあるのです。



遠方の実家を行ったり来たりしているときも、仕事で疲れきってしまったときも、だからこそと時間を作り映画館に出かけました。その時間だけは現実を離れ、日常とは違う世界に没頭できるからです。涙を流したり思い切り笑うことで、自分を解放したいのです。




多額の資金を投入し、大勢の人々が愛と丹精をこめて作られた映画が、今現在も1900円だなんて凄いことです。最近は配信サービスで時間や場所を気にせず映画を楽しめるので、映画館に足を運ばなくともリビングでもベッドの中でも電車の中だってどこでも映画館です。




受賞式が終わると、直ぐにでも映画館に行きたくなります。監督賞を受賞した「パワー・オブ・ザ・ドッグ」はNetflixですぐにでも鑑賞可能です。アカデミー賞6部門も授賞した「DUNEデューン/砂の惑星」の映像もすごく興味があるし、「ナイトメア・アリー」も「ウエスト・サイド・ストーリー」も観たい!こうやって何を観ようかなと悩む時間さえも楽しいのです。




・・映画って本当にいいもんですよね。





第94回アカデミー賞作品賞授賞「コーダ あいのうた」





誰もが心から寛いで映画を観られる平穏な日々が、一日も早く戻りますように。